リレー小説 第10話リレー小説第10話《1から9話まではケン・ハッセー(http://plaza.rakuten.co.jp/kokomoca/) さんと所にあります》 「わからない、わからないの・・・」 由紀は今までの気丈さを一変させて泣き崩れた。 「なあ、話してくれないか?このダンボールに何が入っているのか。開けちゃいけないダンスに何が隠されているのか?それから、この水浸しの床の理由を。」 沈黙の時間がどれほど続いただろうか。5分、30分、否、犬塚には二時間にも三時間にも思えた。そひて、犬塚はゆっくりと立ち上がり、整理タンスへと向かった。 「お願い、やめて。開けないでぇ!」 由紀の手を振り解きパタンと犬塚はタンスの扉を開いた。 ひらひらと舞い落ちる布切れ。彼女の服がどれも、切り刻まれている。ひらひら舞い落ちる。そのなかには小百合に最初にあったときに来ていた服の模様が見え隠れした。 犬塚の頭を嫌なものが走る。 ダンボールを見やると由紀が箱の前から動こうとしない。 「これだけは見せたくない」「これだけは自分の中に」心の中で、ひたすらに由紀は心の中で叫び続けた。 「このダンボールは何なんだ?」 「なんが入ってるんだよ!」 自分でもわからない、止められない気持ち。 由紀はふらふら突然立ち上がり、玄関のほうへ歩き始める。 彼女を横目で見ながらも頑丈にまかれた大きなダンボールの一つを開いた。 そこには、かつて二人が「いつかいつか一緒に座ろうね」と言って購入したベトナムの木製いすが砕かれて押し込められていた。 もう一つの箱からは、犬塚をデッサンされたたくさんの絵と、額縁、お父さんに美大に入学した時に買ってもらったというイーゼル、絵の具・・・彼女の人生をかけてきたものすべてが放り込まれていた。 「もう、由紀は壊れて始めている。 一人にしてはいけない。 由紀はどこへ・・・」 ドーン 渋い音が響き渡った。 早朝、隣のマンションの中庭に彼女の横たわる姿が発見された。 「見つけてやれなかった。あの深夜の音は彼女のさよならだったんだ。」 犬塚は警察に任意同行を求められ、3日間拘留された。警察で何を聞かれたのかほとんど覚えていない。ほとんど喋らなかった。だが、頭の中ではいろんな声と格闘していたのだ。 「由紀があんなになるまで、なぜ気付いてやれなかったんだろう。」 「由紀はまっすぐ俺を見ていてくれたのに、俺は何をしてやれたんだろう。」 責めた。責め続けた。 ただ、一つだけ警察で知ったことがある。 加代子は一週間休暇という名目で、ロンドンの会社のオファーを受け取りに言ったのである。人事は他言せず。 証拠不十分で釈放された時、小百合が秋夫と警察の前に立っていた。 「おかえり」と小百合 「んぁ」と答える犬塚 冬の到来を感じる晴れた日の日曜日。 犬塚は秋夫と公園でキャッチボールをしている。その横のベンチで小百合が微笑んでいる。いかにも幸せ一杯の家族だ。あの空白の一週間を小百合は語らない。 犬塚は思った。 「叔父さん、これでよかったんだよな。 アンタが愛した女性とアンタの子供を幸せにしてやればいいんだな。 由紀の面倒はそっちで見てやってくれよ。」 何も無かったかのように落ち葉がすべてをかき消していく。 |